目次

試算表の意義

なぜ試算表を作成する必要があるの?

今期の利益が出ているか、出ていないかは、通帳の残⾼を⾒れば⼤体分かると思ってらっしゃいませんか?

たしかに、通帳の残⾼は、利益が出ているかどうかのある程度の⽬安にはなります。でも、ちょっと待って下さい。決算で「利益がこれだけ出ています」と伝えられた時に、通帳の残⾼と伝えられた利益が、想定と全く違っていた経験はありませんか?

銀⾏からお⾦を借りたり、借⼊を返済したり、在庫が増えたり、在庫が減ったり、売上の⼊⾦が滞ったり、売上を⼿形で回収したり、これらは全て、利益と通帳の残⾼とが乖離してくる要因です。

もちろん、通帳の残⾼をベースに、融資の増減を加減して、在庫の増減を加減して、売掛⾦の増減を加減して・・・と、計算してやれば通帳からも利益が出せるのですが、さすがにそんなやり⽅を覚えるのは⾯倒だし、覚えたとしても間違ってしまいそうです。

となると、利益が出ているのか出ていないのかが、そのものズバリ、数字で表⽰されていると楽ですよね?

そうです。それこそが試算表の存在意義なのです!

利益を知ること以外の試算表の役割

試算表を作成すると、毎⽉の粗利率と固定費の額がわかります。この2つと、売上の⾒込が揃えば、決算の時の利益も予測することが出来ます。

利益を予測することが出来れば、「儲かっているから投資をするか!」とか「⾚字になりそうなので、経費を減らすか・・・」と、これからの経営⽅針の⼤きな⽬安となります。

また、銀⾏から融資を受ける際には、必ず試算表の提出を求められることは、皆さんもお馴染みだと思います。

銀⾏は、「利益が出ていて(もしくはこれから利益が出せて)、しっかりと返済をしてもらえる会社に対してのみお⾦を貸したい」と当たり前のように思っています。

そして、試算表すらちゃんと作っていない、どんぶり経営の会社に、お⾦が返せるはずがないとも思っています。

なぜ試算表を早く作る必要があるの?

試算表が⼤事なことはなんとなくわかった。早く作れば作るほどいいとは⼀般論ではわかるけど、具体的なメリットって何?と思われていませんか。

ダイエットを思い浮かべて下さい。毎⽇、体重を計って記録することがダイエットの極意の1 つです。体重が増加気味なのか、順調に減っているのかリアルタイムで把握せずにするダイエットを想像できますか? 1 ヶ⽉前の記録を元にして「太ってきたから、⾷べるものを減らそう!運動もしよう!」とやっても遅いですよね。

試算表も同じです。会社の現状把握がリアルタイムに近づけば近づくほど、悪い時の路線修正も早くできるようになります。

しっかりとした試算表を⼀緒に作りましょう

「税理⼠さんが上⼿いこと試算表を作ってくれるんでしょ?」このように考えている経営者の⽅も中にはいらっしゃいます。

しかし、我々、税理⼠は魔法使いではありません。むしろ、試算表の作成は、⼯場で製品を作るような機械的な作業を⾏っています。

まず、材料(会計資料)を集めてきます。次に、その材料を加⼯して部品にします(仕訳を切る)。さらに加⼯した部品を組み⽴てて製品にします(粗の試算表を作る)。最後に、製品におかしなところが無いか検査をして(仕訳の修正をする)出荷することとなります。

そこで、そもそもの材料⾃体(会計資料)に不良品や不⾜があればどうでしょうか。その材料を使えるものにする作業(資料の不備や不⾜に対する依頼)が追加されて、出荷までの時間が伸びてしまいますし、不良品が多ければ、製品の精度⾃体を保ちにくくなります。

ここでいう材料の供給元は、顧問先の皆さんです。皆さんがこのルールをお読みくださって、いい材料を供給してくだされば、精度の⾼い試算表をスムーズに作ることができようになります。

皆様のご協⼒よろしくお願いいたします。

レシートの扱い方

領収書ではなくレシートでもらいましょう

レシートの⽅が領収書よりも書いてある情報量が多いため、後になって内容を思い出そうとした時に、遥かに思い出しやすくなります。

レシートよりも、領収書の⽅が「証拠⼒が⾼い」と思っている⽅も多いようですが、レシートとは英語で領収書のことです。

税務調査でも、レシートは透明度が⾼いためスルーされて、⼿書きの領収書はしっかりと確認されていることも多いようです。

レシートは裏⾯に内容を書き込みましょう

1)交通費なら「○○の研修に出席のため 社⻑」
(理由・誰の分)

2)飲⾷費なら「社⻑・⼩林税理⼠ 接待 2 名」
(参加者・理由・⼈数)

3)贈答品なら「〇〇社 お中元」
(相⼿先・理由)

箱とノック式のペンを⽤意していただき、毎⽇、財布の中から出す度に、裏⾯にペンで記⼊するようにして下さい。溜めると⼤変な作業ですが、毎⽇やれば、記憶も新しいですし、枚数も少ないため、苦になりません。

なかには「まとめて作業すればいいや」と考えて、後になって思い出すのが⾯倒になってしまったのか、レシートの表⾯だけを⾒て「交通費」や「飲⾷費」とだけ書いてくる経営者の⽅がいらっしゃるのですが、表⾯を⾒ればそれぐらいのことは分かるので、これではわざわざ書く意味がありません。

レシートが出ない経費は出⾦伝票を作成しましょう

切符や⾃販機のジュースなどはレシートが出ませんので、何もしないでいると経費から抜け落ちてしまいます。100 円ショップで「出⾦伝票」が売っていますので、これに⽇付・⾦額・内容を書いてレシートの代わりとして下さい。

購⼊時に、スマホで写真を撮ったり、メモを取っておいて、財布の中のレシートを精算するのと同時に、出⾦伝票を作成するようにするとスムーズに進むと思います。

レシートと出納帳は1対1でナンバーを振りましょう

レシートや出⾦伝票を出納帳に転記する時には、⼿書きでナンバーを付けてください。出納帳の摘要欄に、そのナンバーを転写することで、⼆重計上を防げますし、後になって対応するレシートを探し出す際にとても便利です。

ナンバーはレシートと出納帳を紐付けするためだけですので、数字が⾶んでも問題ありませんし、⽉が変わる度に、また1 から振り直しても構いません。

会計書類はコピーを作らないようにしましょう

以前、会計資料のコピーをこちらに送ってこられるお客様がいらっしゃいました。
会計資料が、コピーだけだったり、原本だけだったり、コピーと原本の両⽅あったりとまちまちで、⼆重計上を防ぐために、重複のチェックをするだけで⼤変な時間と⼿間がかかりました。

どうしても⼿許に控えを取っておきたいと思われる時は、コピーでは無く、スキャンを取るか、写真を撮って、電⼦データで⼿許に置いておくようにしてください。

キャッシュレスの勧め

⑥ ネットバンキングの契約をしましょう

ネットバンキングがあれば、パソコン⽤のデータ(CSV ファイル)で⼊出⾦をダウンロードできますので、仕訳にする⼿間を⼀気に省くことができます。

また、ATM で振込をすると、振込先が印字されませんが、ネットバンキングでは振込先も印字されるため、後で⼿書きで補ってあげる必要もありません。

いつもしっかりと会計資料を準備してくださるお客様でも、ネットバンキングを使っていない⼝座だと、年に1 件ぐらいは振込先が分からない振込があったりします。

銀⾏の窓⼝に並んだり、紙の振込⽤紙に記⼊する⼿間も省けますし、15 時を過ぎても振込ができます。さらに、銀⾏によっては振込⼿数料も安くなります。

⑦ できるだけ現⾦を使わないようにしましょう

売上でも⽀払でも、現⾦を扱うとなると、両替⽤の⼩銭の⽤意が要りますし、⼊出⾦の記録を必ず何かで残しておく必要があります。

また、現⾦の取り扱いにはミスが付きものです。現⾦の取り扱い⾃体をゼロにすることは難しいですが、頻度を減らすだけでミスの回数も軽減できます。

現⾦の売上は、クレジットカードかQR コードの利⽤へ誘導していただけるといいですね。⼿数料が惜しいのは分かるのですが、⾮現⾦だと⾼額な売上も⾒込みやすいですし、メリットも⼤きいと思います。

同様に、現⾦の⽀払も、クレジットカード払いか⼝座振替に変更するようにして下さい。こちらは⼿数料が必要無いので、積極的に進めて下さい。

⑧ 従業員の経費精算は⽉1回に限定しましょう

従業員が経費を⽴て替える度に、現⾦で精算をするのは⾯倒ですし、その都度、⼝座からお⾦を下ろしてくるか、まとまった現⾦をずっと会社に置いておく必要があります。

従業員ごとにExcel で集計してもらって、毎⽉の給与と⼀緒に振り込むように、仕組み⾃体を変えてしまいましょう。

どうしても⽴替の額が多くて、従業員の⽣活に差し障りが出るような場合には、前払⾦として⼀定額を先に⽀給して、使った分を補充していく⼿もあります。常に⼀定額が従業員の⼿許にあるイメージです。
従業員が退職する時には、最後の給与から前払⾦を回収すればOK です。

クレジットカードの注意点

⑨ クレジットカードは法⼈カードを作りましょう

従業員にクレジットカードを使⽤させて、⽴替精算の⼿間を省くことを考えると、法⼈カードの作成は必須です。

経営者個⼈名義のカードをやむを得ず使⽤されるときは、経費か経費では無いかを検討する⼿間を省くために、私的な利⽤が全く無いカードを使うようにしましょう。

また、法⼈の経費に対して付与されたポイントを、個⼈で利⽤することは、経営者が会社から利益を得ることとなり、⼀時所得として所得税の課税対象になります。

⑩ カードの利⽤控えを捨てないようにしましょう

クレジットカードの利⽤は、毎⽉送られてくる利⽤明細だけあれば経費になると思われていることが多いですが、実は30,000 円以上については、利⽤控えが無いと消費税を控除するための要件を満たさないのです。(インボイス導入後は30,000円未満の場合も要件を満たさなくなります)

また、利⽤控えを使わずに、利⽤明細から⼝座振替⽇に経費を計上すると、本当の利⽤⽇から数ヶ⽉後に経費の発⽣が先送りされてしまうため、会社のリアルタイムな実態を表さなくなってしまいます。

さらに、会計帳簿に⼝座振替⽇で記帳されることで、利⽤控えの⽇付とズレが⽣じて、後になって探し出す時に無駄な⼿間がかかってしまいます。

ATM や窓⼝を使わざるを得ないとき

⑪ お⾦の引き出しは、通帳に理由を書きましょう

⼈間の記憶はあやふやです。お⾦を引き出す度に、通帳にメモをしておかないと、数週間後には何のための引出だったか、全く思い出せなくなります。

運悪く、裏付けとなる資料が残っていない場合は、その思い出せなかったお⾦の引き出しは、経費とはならず、役員への貸付⾦となってしまいます。

⑫⼝座移動する際に、お⾦を使わないようにしましょう

例えば10 万円引き出して、70,000 円は別の⼝座に⼊⾦して、残りの30,000円のうち22,000 円で必要なものを買ったとすると、次のような問題が3つ出てきます。

  1. 70,000 円の⼊⾦に何も書かれていないと、この⼊⾦が⼝座間移動なのか、売上の⼊⾦なのか分かりません。
  2. 22,000 円のレシートを紛失してしまうと、何を買ったのか、いくら使ったのか分かりません。
  3. 残りの8,000 円は社⻑の財布の中に消えてしまい、役員貸付⾦となってしまいます。

これらを防ぐため、10 万円引き出したら、10 万円を別の⼝座に⼊⾦するか、そもそも最初からネットバンキングで⼝座移動するようにしてください。

⑬振込控えを請求書にホチキス留めしましょう

ATM や窓⼝で振込すると、振込控えが発⾏されます。この振込控えは捨ててしまわずに、対応する請求書にホチキス留めしましょう。調査官に提出を求められることがあることと、⼆重⽀払することを防ぐためです。

現⾦の取り扱いについて

⑭ 現⾦回収の売上は、そのまま⼝座に⼊⾦しましょう

売上額と⼊⾦額がもしも違っていると、その理由を後から追いかけて調べることはかなり困難です。

また、違っていること⾃体が⽇常的になってしまうと、お⾦を抜いても分からないと思われて、従業員の不正を誘発してしまうことになりかねません。

レジ実査で⾒つかった現⾦差異は経費となりますが、⼊⾦時での不⾜額は経費とはならずに、社⻑が個⼈的に使ったものとして役員貸付⾦となってしまいます。

⑮ 現⾦は毎⽇実査をしましょう

現⾦出納帳・⼩⼝出納帳・⾦庫・レジなどの現⾦を扱うものは毎⽇実査をして下さい。いつ差額が出たのかを特定できない状態では、その理由を後から⾒つけることは、ほぼ不可能です。

また、不正を防⽌するためにも、実査をした⼈のサインを記録に必ず残すようにしましょう。

書類の管理

⑯ 請求書の右上に振込⽇を書き込みましょう

ネットバンキングで振込をした場合は、⼆重⽀払を防ぐために、請求書の右上に振込⽇を書くようにしましょう。⽇付印を押しても構いません。

⽇付が⼊っていない[振込済]の印を押すだけでは、振込⽇を調べる必要があるときに、通帳の摘要と⾦額を頼りにして、通帳を上から全て⾒ていかなくてはならなくなります。

⑰ 紙の納品書が無い場合はPDF データを送りましょう

amazon での購⼊など、紙の納品書が付いてこないケースが増えてきています。発注メールを印刷してもいいのですが、⼿間とインクと紙がもったいないので[Microsoft Print to PDF]で印刷して、PDF ファイルを会計事務所に送るようにしましょう。

メールは、印刷しても削除したりせず、保存専⽤のフォルダを作って残しておくようにしましょう。

また、amazon の場合には、amazon ビジネスを利⽤することで、複数のユーザーが購⼊履歴を⾒られるようになりますので、会計事務所にユーザーID を付与して⾒てもらうという⼿もあります。

⑱ 紙資料の送り⽅について

紙資料に、振込控えや納品書などをホチキス留めするときは、フラットホチキスを使いましょう。旧来のステープルが丸くなるホチキスを使うと、そこだけが⼤きく嵩張ってしまいます。

また、綴じ具用の穴も開けないで下さい。綴じるためのファイルより紙のサイズの方が大きい場合は、真ん中揃えで穴を空けると、綴った時に下側がはみ出してしまいます。クリアファイルにまとめて、会計事務所に送るようにしましょう。

その他

⑲ 役員貸付⾦が増えることの問題点について

  1. 銀⾏融資に対する経営者の個⼈保証を外そうとする際に、経営者保証ガイドラインには「法⼈と経営者との関係の明確な区分」が必要とされています。役員貸付⾦が多額に残っていると、このことが問題になってくる場合があります。
  2. 銀⾏は貸したお⾦を、貸した理由以外で使われることを嫌います。多額の役員貸付⾦があることで、銀⾏が融資したお⾦を、経営者が私的に使⽤していると判断されて、マイナス評価となる場合があります。
  3. 役員貸付⾦は利息を取る必要があります。多額の役員貸付⾦に対して利息を取らないでいると、税務調査で給与と判断されて、源泉所得税と法⼈税のダブルパンチを⾷らわされる恐れがあります。

⑳ 経費になるかどうかの判断基準

①従業員さんが「精算してください」とそのレシートを持ってきたと仮定したときに、「それは確かに仕事に必要だ」と、気持ちよく精算出来るなら経費です。

ただし、給与と判断されて、源泉所得税が課税されるものもありますので、微妙なものは税理⼠に相談が必要です。

②仕事に使った証拠(議事録や報告書、管理簿など)を残せるなら経費です。

証拠を準備するのが⾯倒で、税務調査の時に⼝頭で⾔いくるめればいいと考えている経営者もいらっしゃいます。

しかし、証拠が無い場合には、調査官は否認する⽅向で進めてきますので、延々と押し問答を続けることになります。証拠があると、調査官はそれをひっくり返す必要がありますので、さらっと⾒て、それ以上は何も⾔わないことが多いです。

最後に

⽂字ばかりの20 項⽬をお読みいただき、お疲れ様でした。
経理書類をきっちり残すことを⼼がけるようにすると、無駄な経費を使うことが少なくなってきます。逆に「この経費は会社の売結果として、お⾦は少しずつ貯まっていく・従業員の不正を防げで、会社はさらに伸びていきます。

結果とし、お⾦は少しずつ貯まっていく・従業員の不正を防げる・税務調査で安⼼して対応出来る・銀⾏さんに褒めてもらえる・会計事務所の対応は早くなると良いこと尽くしです。

ぜひ、この⼩冊⼦を読んだだけで終わらせず、1つずつ実践していってくださることで、もっといい会社へと近づいていけるものと確信しています。